紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  「害虫防除の常識」    (目次へ)

    2.有害生物(害虫)管理にあたって守るべき事柄

     10) 農業と環境関係の法律とのかかわり

 農業を営む時に、使用した農薬、窒素・燐酸肥料、プラスチック廃材等が環境中に出て悪影響を及ぼすことがあるので、環境基本法、水質汚濁防止法などの環境関係の法律によって、その流出(放棄)が規制されている。

 (1)
農薬による環境汚染を防止するための規制には、どのようなものがあるのだろうか?  
 
 使用した農薬あるいはその残りや、農薬の付着したタンク(水槽)や機具を洗った水を河川、灌漑用水路、湖沼等に流すと、環境汚染を起こしたり、周辺生物に悪影響を及ぼすので、法律等で規制されている。

  環境基本法では、人の健康や生活環境に被害を及ぼす大気汚染、水質汚濁、土壌汚染等を防止するために、環境基準が設けられている。「人の健康の保護に関係する環境基準」のうち、公共用水域(河川、湖沼、灌漑用水路等)の水質汚濁の基準値が 27種類の化学物質について設定されている。このうち、農薬関係は下記の表12に示したチラウムなど3種類について基準値が設定されている。地下水の水質汚濁についても、農薬関係では下記の表12の3種類について同様の基準値が設定されている。

 表12 公共用水域の水質汚濁にかかる農薬関係の環境基準
農薬の種類 基準値
チ ウ ラ ム(殺菌剤) 0.006mg/L以下
シ マ ジ ン(除草剤) 0.003mg/L以下
チオベンカルブ(除草剤:別名サターン) 0.02mg/L以下

 また、農薬による土壌汚染の環境基準についても定められており、上記の表12にある3種類について、検液中濃度がそれぞれ同じ基準値となっている。さらに、有機りんについても定められており、有機りんでは検液中に検出されないことが基準とされている。

 水質汚濁防止法では、排水中の有害物質の許容限度が定められており、農薬関係では、有機りん(パラチオン、メチルパラチオン、メチルジメトン及びEPNの4種類)およびチウラム、シマジン、チオベンカルブについて定められており、有機りんについては1mg/L、チウラム以下の3種類については、上記の表12に示した値と同じ値が許容限度とされている(排水基準を定める省令)。

 また、水質汚濁防止法では有害物質の地下水への浸透についても定められており、農薬では上記と同じ物質について定められている。ただし、有機りん(上記4種類)については検出されないこととされている(施行規則)。

 なお、都道府県によっては、水質汚濁防止法による一律基準よりも厳しい上乗せ基準が設けられている場合がある。

 さらに、環境省局長通知により、「人の健康の保護に関連する物質ではあるが、公共用水域等における検出状況等からみて、直ちに環境基準とはせず、引き続き知見の集積に努めるべき物質」が「要監視項目」として定められている。現在、27種類の物質が定められているが、そのうち、農薬関係は表13に示したようにイソキサチオン、ダイアジノンなど12種類が挙げられている。

 上記の農薬だけでなく、農薬を使用した場合には、残った分や、容器の洗浄水を河川、用水路、湖沼等の公共用水域に流さないようにする必要がある。具体的な処理方法については、残分が出ないように農薬の散布量を決めて散布液を調製し、少量残った分は散布むらの有る場所に散布し、また、洗浄液は圃場内で処理し、公共用水域に流出させないことが大切である。

 水質汚濁については、農薬取締法においても規制され、「水質汚濁性農薬」が指定されている。また、農薬の登録に際しては、魚毒性、藻類、甲殻類など水生生物への毒性もチェックされ、魚毒性のランク付け(A〜C)がなされており、ランクによって農薬の使用方法が定められているので遵守する必要がある。
 
 (2)硝酸性窒素および亜硝酸窒素による汚染の防止
 
 
硝酸性窒素や亜硝酸性窒素を過剰に摂取すると健康被害が生じるので、環境基本法の告示で「人の健康の保護に関する環境基準」として、硝酸性窒素および亜硝酸性窒素による水質汚濁の基準値が両者の和で10mg/Lと定められている。野菜畑、茶園などで窒素分を含む化学肥料を多く施肥した場合に水質汚染等が問題となるが、有機質肥料でも過剰に用いると問題となることがあるので注意を要する。また、畜産においても家畜の糞尿が適切に処理されずに、河川などの公共用水域に流出したり、地下水に浸透した場合に、環境基準を上回って問題となる。
 
 
水質汚濁防止法では、窒素含有量および燐含有量の排出基準が決められており、それぞれ120mg/L(日間平均60mg/L)および16mg/L(日間平均8mg/L)とされている。

 (3)施設栽培用塩化ビニール等の廃棄物の処理

 
施設栽培や園芸・畑作などで使用されるプラスチック製品などは、廃棄物処理業者に引き取ってもらったり、農薬の空き容器はまとめて回収業者に引き取ってもらうなど、適切に処理する必要がある。これらを山野等に捨てたりすることは禁じられており、これを行った場合には「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」によって処罰される。また、廃棄物の焼却は一部の例外を除き原則的に禁止されている(同法16条の2)。塩化ビニール製品を野焼きすると猛毒のダイオキシンが発生し、ダイオキシンによる環境汚染を起こすことが知られている。
 

□関連情報:法律関係は「環境省HP(法令・告示・通達)」で参照できます。
        農薬の空き容器、使用残農薬の処分については「農薬工業会HP」で参照できます。


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